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平成27年度 インターンシップ 参加者の声: 加藤洋生さん

インターンシップの概要


所属・氏名

東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 加藤洋生さん

期間

2016年2月16日(火)〜3月18日(金)

滞在先

アメリカ合衆国、Nashville

受け入れ機関・担当者

Vanderbilt Univ., Dept. of Physics and Astronomy

Kalman Varga教授


インターンシップへの応募理由と目的


 

励起子は半導体中で光励起された電子正孔対がCoulomb力で束縛した準粒子であり、半導体の光応答を理解する上で欠かせない存在です。電子・正孔系にはより複雑な複合粒子も存在し、励起子に電子ないし正孔が一つ加わったTrion、励起子二つが結合した励起子分子などが知られていました。電子正孔系にどのような複合粒子が存在するかは自明ではなく、同一粒子間に働くPauli斥力から直接ギャップ半導体では励起子三量体は存在できないとされてきました。一方、間接ギャップ半導体では電子の縮退したバレー自由度および正孔のバンド自由度がPauli斥力を緩和し、励起子のN量体(N>2)、即ちPolyexcitonが安定化するとの理論的予想が存在しました。

私の研究の目的は、Polyexcitonの安定性を理論的に解明することです。この様な量子少数体系の安定性を議論するには、数値計算によるアプローチが欠かせません。受け入れ先のVarga教授は、量子少数体系を低コストで精度よく記述するCorrelated Gaussian基底を用いた計算手法開発の第一人者として知られています。Varga教授からは数値シミュレーションの中核となる計算コードの提供を受け、昨夏より共同研究として現在の研究を進めてきました。

本インターンシップの募集がなされた時期には、数値的に励起子三量体の安定化を示す結果がすでに得られていました。アメリカ物理学会での発表も決定し、また並行して論文の執筆も進めていましたが、バンド間結合の効果の評価と本研究で行った試行関数の拡張に関してVarga教授との詳細な議論の必要性を感じていました。また、これとは別の新規テーマとして、遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)の2次元結晶中励起子の実空間中での操作技術を構想していました。Varga教授のグループでは同様の系に関して励起子の状態計算を進めており、研究テーマの立ち上げに関してアドバイスが得られることが期待されました。以上の理由から、本インターンシップに応募しました。

 

インターンシップの内容と経過


 

インターンシップでの目的は、これまでの共同研究で行った試行関数の拡張とバンド間結合項の評価の妥当性を議論すること、そして新たな研究テーマの立ち上げの為に2次元系励起子の理論的記述方法を学ぶことでした。

一つ目の目的については、滞在期間の前半にVarga教授と議論することで達成されました。具体的にはバンド間結合項の評価の為に試行関数の実数化を行っていましたが、系の対称性を考慮しても一般性を失ってはいないこと、また結果的にバンド間結合項の寄与は無視できることも確認しました。

二つ目の目的については、現地到着後すぐの話し合いの結果、2次元系の遮蔽されたCoulomb力の定式化についての文献などを紹介して貰うことが出来ました。また、滞在期間の前半には同大学の物性実験グループのBolotin教授のセミナーに参加する機会を得ました。Bolotin教授のグループとVarga教授のグループは、TMDの光応答に見られる励起子多体効果について共同研究を行っています。その関係から、研究テーマの設定に関してBolotin教授に相談し、重要なアドバイスを受けることも出来ました。

滞在期間の最後にはアメリカ物理学会に参加するため、Baltimoreに移動しました。Varga教授のグループに滞在中に発表練習をする機会を頂けたため、学会当日の発表もスムーズにこなすことが出来ました。

インターンシップを通じて得られた成果


 

Varga教授とは昨夏以来共同研究の形で協力しており、インターンシップに参加した時期は研究成果のまとめの段階にありました。電子正孔系の多体束縛状態の数値シミュレーションには粒子間の相関を低コストかつ高い精度で記述できる手法が必要であり、特に励起子三量体の計算にはCorrelated Gaussian基底がその条件を満たす殆ど唯一の手法であると言えます。Varga教授はこの手法の発展・応用の第一人者であり、直接の議論により研究上の幾つかの重要な疑問を解決できたことは大きな成果だと考えています。

また、アメリカは流行のテーマに多くの研究者が集中する傾向があり、新規研究テーマで取り扱うTMDもまた2次元エレクトロニクス、バレートロニクスの最有力候補物質として盛んに研究されています。展開の早い研究領域に参入する上で、Varga・Bolotin両グループとの議論やアメリカ物理学会を通して最前線の情報を集めることができたことは、研究テーマを立案する過程で大きな助けとなりました。