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平成27年度 インターンシップ 参加者の声: 平岡喬之さん

インターンシップの概要


所属・氏名

東京大学 大学院工学系研究科 平岡喬之さん

期間

2016年2月18日(木)〜3月28日(月)

滞在先

ハンガリー・ブダペスト

受け入れ機関・担当者

Eötvös Loránd 大学 生物物理学科 Tamás Vicsek 教授

 

インターンシップへの応募理由と目的



細胞運動、動物の群れ、歩行者の集団など、構成要素が自ら運動エネルギーを生み出すことの できる対象は自己駆動粒子系と呼ばれ、近年、理論と実験の両面から研究が進展しています。集団運動、異常密度ゆらぎなど、自己駆動粒子系に普遍的に見られる性質のいくつかは、上に挙げた ような生物に限らず、加振した粉体や外場により駆動されるコロイドなどにも共通することが発見されたことから、「アクティブマター」と呼ばれるクラスの物質として、その非平衡統計力学に関心が持たれています。私はこれまでアクティブマターの性質を理論および計算物理学的な手法を用いて調査してきました。

インターンシップの受け入れグループを主宰する Vicsek 教授は、自己駆動粒子系の分野における先駆的なモデルの提唱者として分野では広く知られており、また現在でも生物の群れ運動の研究 を理論・実験の両面から活発に行っています。そこで私は、上述したような問題意識を深め、細胞や動物を用いた実験・観測の成果からの示唆を得るため、また受け入れグループが取り組んでいるもう一つのトピックである複雑ネットワークの解析にも強い関心を抱いていたことから、本プログラムを利用し受け入れ先グループに滞在したいと考え、応募するに至りました。

 

インターンシップの内容と経過


 

滞在期間のはじめに Vicsek 教授と面談し、インターンシップの具体的な内容についてあらためて相談した結果、グループで取り組んでいるテーマについて、近刊論文やメンバーとの議論を通じて理解を深めた上で、新たな研究のスタートアップに取り組むことになりました。

インターンシップ期間の40日間のうち、前半は主に動物行動や階層的ネットワークに関する文献調査やグループのメンバーとの議論を通じて、研究状況の把握とアイディアの涵養に努めました。期間後半は、集合的意思決定に関する数理モデル研究プロジェクトの立ち上げに参加するとともに、 その研究において重要な役割を果たすと考えられる「有向非巡回グラフ」の理論について考察を進めました。また、最終週にはグループ内の研究会にて “Collective behavior of repulsive self- propelled particles” というタイトルで、私が博士課程で取り組んできたテーマについて発表を行うとともに、他のメンバーの発表を通じてグループ内で進行している研究の動向を知り、議論を行いました。また滞在期間中は、Vicsek 教授と週に1回の割合で個別に面談していただき、アドバイスを受けることができました。

 

インターンシップを通じて得られた成果


 

Vicsek グループの大きな研究テーマは、生物の集団運動と複雑ネットワークです。前者は特に鳩や馬などの動物の群れに焦点をあてているほか、ドローンの制御などロボット工学的な観点からも研究が進められています。また後者は論文の引用ネットワークの解析などを行っています。両者に共通する関心は、社会性・階層性を持つ集団での個体の影響力の伝播やその結果としての 集団的意思決定にあります。こうした観点は、私が取り組んできた自己駆動粒子系の数理モデル研究とも、日本で近年注目されている自発的に運動する油滴やバクテリアの運動など、いわゆる「アクティブマター」研究とも異なる文脈であり、新鮮さを感じるとともに、今後の私の研究の方向性を考える上で非常に示唆的なものとなりました。

国内外を問わず、自分が所属する研究室以外のグループに身を置いたことは私にとって初めての経験でしたが、英語で意思疎通を図りながら、他のメンバーと関係を築きながら研究を前進させることができたことは、自信になりました。また、滞在中に立ち上げに参加した新規プロジェクトは、インターンシップが終了した後も Vicsek グループのメンバーと協力して継続的に取り組んでおり共同研究に発展することが期待されます。本インターンシップに参加することで上記のような結果・経験を残せたことは大きな成果であり、非常に有意義なものになったと考えています。