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イノベーション創出人材の声

平成28年度 インターンシップ 参加者の声: 堀田俊樹さん

インターンシップの概要


所属・氏名

東京大学大学院工学系研究科 博士課程3年 堀田俊樹さん

期間

2017/2/6 – 2017/3/31

滞在先

静岡県 裾野市

受け入れ機関・担当者

トヨタ自動車 先進安全先行開発部 森大樹GM


応募の理由とインターンシップの目的


本インターンシップでは,自動運転技術の開発に携わった.自動運転は近年特に話題の分野のひとつで,利便性や安全性の観点からも社会からの期待感が非常に大きく,各社がこぞって開発に乗り出している.しかし一方で,世間から認識されているよりも技術的な困難や課題も多く,用いる技術や方針なども確立されておらず,様々な分野を巻き込みながら開発にあたっているというのが現状である.

私は,自らの研究活動を通じて培ってきた技術や能力を産業界で活かす術を知ると共に,幅広い分野での活躍を期待できる人材へと成長することを目指して本プログラムに応募し,インターンシップに参加した.私の専門分野はモンテカルロ・シミュレーションによる相転移現象の解析で,
一見自動運転とは全く関係が無いように見える.しかし,本インターンシップを通して,様々な視点からの取り組みを模索する必要がある黎明期においては特に,こうした甚だ無関係に見える分野の見地こそが重要であることが実感出来た.事実,自動運転の研究グループには一見無関係に見えるバックグラウンドを持つ様々な人材が在籍しており,それぞれが専門性を持ち寄り非凡なパフォーマンスを発揮している.

インターンシップの内容と経過


本インターンシップで携わったのは,Human-Machine Interface(HMI)と呼ばれる,運転手と自動運転車両の相互作用に関わる技術である.
トヨタ自動車では自動運転技術を人の運転に取って代わるものではなく,ヒトとクルマがチームメイトとしてお互い支え合いながら,
運転という体験をより快適なものにする為のものと位置づけている.また,実情として,自動運転技術は運転の全てを担う完全自動運転には至っておらず,自動と手動の運転の切り替えがどこかで必要となる.そのためには自動運転システムがどのように機能しているかを運転手に伝える技術が必要不可欠である.自動運転システムは、様々なセンサから得られる膨大な情報を知的に処理することによって、安全に走行することが可能となっているが、この複雑なシステムの状況をいかにわかり易く伝えるかがポイントである。

本インターンシップでは,自動運転システムの動作状況を定量評価する手法の考案,実装,及び評価にチャレンジした.大まかな内容としては,自動運転試験車両による実験を含むシステムの設計や構築などであるが,企業の開発に関わることなので,詳細については控えさせていただくことをご了解いただきたい.また,実際に自動運転車両に試乗する機会もあり,最新技術を肌で体感することができた.

インターンシップを通じて得られた成果


本インターンシップでの研究成果として,自動運転システムの動作状況を定量評価する,という段階まで到達できた.自動車の技術開発においては, 製品化に至るまでの道のりが長いと聞いているが, 今回の成果が先へと繋がっていくことを期待したい.

本インターンシップでの取り組みでは, トヨタ自動車の自動運転開発に一定の貢献をできたものと自負しており, また一方で,本インターンシップで得られた経験は私自身にとっても非常に大きい収穫であった.参加して最初に取り組んだのは,まずグループで何を,どのように進めていくかを考える事であり,自動運転については全くの素人で右も左もわからなかった身としては少々荷が重く感じられるものでもあった.しかし,異分野の組織で働くとき,自身の専門分野もまたその組織にとっては異分野であり,自身の専門性を生かして何ができるかを判断できるのは組織にとっての異分野を専門とする当人だけである.本インターンシップで取り組んだ仕事は,システムの有効模型の構築,導出,プログラムの実装などが主であったという点では物性理論分野での私の取り組みと共通したものであり,今回の研究成果は異分野での経験があってこそのものであるとも言える.本インターンシップでは,
強みを生かせる仕事を自ら開拓していく事の重要性を実感し,今回の経験は今後のキャリアプランを考える上での大きな指針となりうるものであると考えている.

平成28年度 インターンシップ 参加者の声: 佐藤夏彦さん

インターンシップの概要


所属・氏名

東京大学 大学院理学系研究科物理学専攻 博士課程2年 佐藤夏彦さん

期間

2016年7月26日~9月14日

滞在先

武蔵小杉

受け入れ機関・担当者

日本電気株式会社システムプラットフォーム研究所


応募の理由とインターンシップの目的


博士課程を終えた後、学校で培ってきた能力をどのように社会で活かすことができるのか、企業の中で実際の業務に近いことを行いながら知りたく思い、インターンシップに関する支援の手厚いイノベーション創出人材育成プログラムに応募しました。

実際のインターンシップ先や課題を決めるにあたっては、提携機関である日本電気株式会社での研究インターンシップの課題に、興味がありかつ研究でも使用している機械学習に関する知識を活かせそうなものがあったため、PCoMSの方に相談させていただき、面接やインターンシップ申し込みなどについて調整していただきました。また、インターンシップの実施前にビジネスマナーやコミュニケーションに関する” 博士人材スキルアップ研修”を受講させていただいたり、インターンシップ実施中の滞在先を用意していただくなど、インターンシップに関することについて幅広く支援していただき、安心してインターンシップに取り組むことができました。

インターンシップの内容と経過


本インターンシップの研究課題は、日本電気株式会社システムプラットフォーム研究所で研究されている可用帯域推定技術に機械学習手法を適用し、その評価を行うことでした。多くの可用帯域推定技術では、送信端末から複数の小さな計測パケットを受信端末に送り、受信側での受信間隔を測定し、その変化から可用帯域を推定します。このとき、受信間隔の変化点が可用帯域の推定に重要となるのですが、モバイル網においては、可用帯域とは別の要因による受信間隔の変化も起こり、可用帯域の推定が難しくなります。これまでの研究では、そのような外乱がない場合の受信間隔の変化を様々な可用帯域について計算して、測定で得られた変化と比べ、最も当てはまるときの可用帯域を推定値として用いると、良い推定値となることが分かっていました。本インターンシップにおいては、私自身が研究にも使用している機械学習手法をこの推定技術に適用しました。

学習に必要なデータの整理や単純な応用などを行ったのち、データの偏りなどに対する対処を行ってより良い推定が行えるようになりました。

インターンシップを通じて得られた成果


可用帯域推定技術に対する機械学習手法の応用について、複数の機械学習手法を適用し、その評価を行いました。その結果、一部の機械学習手法で従来手法に比べて推定精度の向上が見られました。この成果は可用帯域推定における機械学習的なアプローチの可能性を示すことができたと考えています。

また、私個人としても、企業で行われている研究の一部に実際に身を投じてみることで、応募目的でもあった”学校で培ってきた能力をどのように社会で活かすことができるのか”という問いについての答えにより近づけたと思います。また、研究に使うデータの選び方、前処理や扱い方、データの偏りによる推定の変化とそれに対する対処など、データ分析にかかわる全体的なことについて実感を持って学び、これからの研究に直接役に立つような実践経験を得られました。

平成28年度 インターンシップ 参加者の声: 越智裕紀さん

インターンシップの概要


所属・氏名

東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 博士課程1年 越智裕紀さん

期間

2016/8/16~2016/9/30

滞在先

神奈川県川崎市

受け入れ機関・担当者

NEC中央研究所グリーンプラットフォーム研究所 荒木拓也様


応募の理由とインターンシップの目的


私はこれまで古典スピン系で臨界現象についての数値計算を行ってきました。臨界現象は熱力学極限においてみられる現象であり、その計算を行うためには大規模な数値計算が必要になります。とくに私が用いている数値的転送行列法は大きな行列の行列ベクトル積が主要な計算となっています。

インターンシップの受け入れ先であるNEC中央研究所グリーンプラットフォーム研究所では情報科学、社会科学を対象に研究しており、これまでの自らの研究で扱ってきた物性物理とは対象は異なります。しかしながら、機械学習についての行列計算、並列化等の計算技術の部分で共通点を見つけられたこと、さらに異分野の研究者との交流を通じて考え方の違いや自らの長所等を知り、企業の研究機関の雰囲気や自らの研究を社会に適用する感覚が身に付けられればと考え、応募しました。

 

インターンシップの内容と経過


インターンシップの初日は研究対象や機械学習について簡単な話を聞きました。その上で、疎なデータを扱う手法の一つであるFactorization machineの並列化、高速化にインターンシップで取り組むこととなりました。最初に、既存のFactorization machineのライブラリの確認をし、逐次計算版の実装を行いました。その際、最適化の手法としては確率的勾配降下法を用いました。次にプログラムを高速化するため、分散並列化の実装をするとともに、計算量を学習の精度につなげる方法を模索しました。最後に研究の成果について、受け入れ先のグループ内で成果報告をしました。

インターンシップを通じて得られた成果


Factorization machineの並列化、高速化における課題点を発見し、その課題の解決に向け、受け入れ先のグループで様々な解決案について意見交換することができました。また、並列化、高速化の設計や実装、コーディングの技術について多くのことを学ぶことができました。その一方で、異なるバックグラウンドを持つ研究者と多くの議論をかわし、多様な考え方を感じることができ、多くの新鮮な刺激を得ることができました。また、企業の研究機関での研究のあり方の一端を垣間見ることができました。何より、一ヶ月半のインターンシップ生活が楽しく過ごせた点が大きく、今後のキャリアを考えるにあたってのよい経験となりました。

平成27年度 インターンシップ 参加者の声: 加藤洋生さん

インターンシップの概要


所属・氏名

東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 加藤洋生さん

期間

2016年2月16日(火)〜3月18日(金)

滞在先

アメリカ合衆国、Nashville

受け入れ機関・担当者

Vanderbilt Univ., Dept. of Physics and Astronomy

Kalman Varga教授


インターンシップへの応募理由と目的


 

励起子は半導体中で光励起された電子正孔対がCoulomb力で束縛した準粒子であり、半導体の光応答を理解する上で欠かせない存在です。電子・正孔系にはより複雑な複合粒子も存在し、励起子に電子ないし正孔が一つ加わったTrion、励起子二つが結合した励起子分子などが知られていました。電子正孔系にどのような複合粒子が存在するかは自明ではなく、同一粒子間に働くPauli斥力から直接ギャップ半導体では励起子三量体は存在できないとされてきました。一方、間接ギャップ半導体では電子の縮退したバレー自由度および正孔のバンド自由度がPauli斥力を緩和し、励起子のN量体(N>2)、即ちPolyexcitonが安定化するとの理論的予想が存在しました。

私の研究の目的は、Polyexcitonの安定性を理論的に解明することです。この様な量子少数体系の安定性を議論するには、数値計算によるアプローチが欠かせません。受け入れ先のVarga教授は、量子少数体系を低コストで精度よく記述するCorrelated Gaussian基底を用いた計算手法開発の第一人者として知られています。Varga教授からは数値シミュレーションの中核となる計算コードの提供を受け、昨夏より共同研究として現在の研究を進めてきました。

本インターンシップの募集がなされた時期には、数値的に励起子三量体の安定化を示す結果がすでに得られていました。アメリカ物理学会での発表も決定し、また並行して論文の執筆も進めていましたが、バンド間結合の効果の評価と本研究で行った試行関数の拡張に関してVarga教授との詳細な議論の必要性を感じていました。また、これとは別の新規テーマとして、遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)の2次元結晶中励起子の実空間中での操作技術を構想していました。Varga教授のグループでは同様の系に関して励起子の状態計算を進めており、研究テーマの立ち上げに関してアドバイスが得られることが期待されました。以上の理由から、本インターンシップに応募しました。

 

インターンシップの内容と経過


 

インターンシップでの目的は、これまでの共同研究で行った試行関数の拡張とバンド間結合項の評価の妥当性を議論すること、そして新たな研究テーマの立ち上げの為に2次元系励起子の理論的記述方法を学ぶことでした。

一つ目の目的については、滞在期間の前半にVarga教授と議論することで達成されました。具体的にはバンド間結合項の評価の為に試行関数の実数化を行っていましたが、系の対称性を考慮しても一般性を失ってはいないこと、また結果的にバンド間結合項の寄与は無視できることも確認しました。

二つ目の目的については、現地到着後すぐの話し合いの結果、2次元系の遮蔽されたCoulomb力の定式化についての文献などを紹介して貰うことが出来ました。また、滞在期間の前半には同大学の物性実験グループのBolotin教授のセミナーに参加する機会を得ました。Bolotin教授のグループとVarga教授のグループは、TMDの光応答に見られる励起子多体効果について共同研究を行っています。その関係から、研究テーマの設定に関してBolotin教授に相談し、重要なアドバイスを受けることも出来ました。

滞在期間の最後にはアメリカ物理学会に参加するため、Baltimoreに移動しました。Varga教授のグループに滞在中に発表練習をする機会を頂けたため、学会当日の発表もスムーズにこなすことが出来ました。

インターンシップを通じて得られた成果


 

Varga教授とは昨夏以来共同研究の形で協力しており、インターンシップに参加した時期は研究成果のまとめの段階にありました。電子正孔系の多体束縛状態の数値シミュレーションには粒子間の相関を低コストかつ高い精度で記述できる手法が必要であり、特に励起子三量体の計算にはCorrelated Gaussian基底がその条件を満たす殆ど唯一の手法であると言えます。Varga教授はこの手法の発展・応用の第一人者であり、直接の議論により研究上の幾つかの重要な疑問を解決できたことは大きな成果だと考えています。

また、アメリカは流行のテーマに多くの研究者が集中する傾向があり、新規研究テーマで取り扱うTMDもまた2次元エレクトロニクス、バレートロニクスの最有力候補物質として盛んに研究されています。展開の早い研究領域に参入する上で、Varga・Bolotin両グループとの議論やアメリカ物理学会を通して最前線の情報を集めることができたことは、研究テーマを立案する過程で大きな助けとなりました。

平成27年度 インターンシップ 参加者の声: 平岡喬之さん

インターンシップの概要


所属・氏名

東京大学 大学院工学系研究科 平岡喬之さん

期間

2016年2月18日(木)〜3月28日(月)

滞在先

ハンガリー・ブダペスト

受け入れ機関・担当者

Eötvös Loránd 大学 生物物理学科 Tamás Vicsek 教授

 

インターンシップへの応募理由と目的



細胞運動、動物の群れ、歩行者の集団など、構成要素が自ら運動エネルギーを生み出すことの できる対象は自己駆動粒子系と呼ばれ、近年、理論と実験の両面から研究が進展しています。集団運動、異常密度ゆらぎなど、自己駆動粒子系に普遍的に見られる性質のいくつかは、上に挙げた ような生物に限らず、加振した粉体や外場により駆動されるコロイドなどにも共通することが発見されたことから、「アクティブマター」と呼ばれるクラスの物質として、その非平衡統計力学に関心が持たれています。私はこれまでアクティブマターの性質を理論および計算物理学的な手法を用いて調査してきました。

インターンシップの受け入れグループを主宰する Vicsek 教授は、自己駆動粒子系の分野における先駆的なモデルの提唱者として分野では広く知られており、また現在でも生物の群れ運動の研究 を理論・実験の両面から活発に行っています。そこで私は、上述したような問題意識を深め、細胞や動物を用いた実験・観測の成果からの示唆を得るため、また受け入れグループが取り組んでいるもう一つのトピックである複雑ネットワークの解析にも強い関心を抱いていたことから、本プログラムを利用し受け入れ先グループに滞在したいと考え、応募するに至りました。

 

インターンシップの内容と経過


 

滞在期間のはじめに Vicsek 教授と面談し、インターンシップの具体的な内容についてあらためて相談した結果、グループで取り組んでいるテーマについて、近刊論文やメンバーとの議論を通じて理解を深めた上で、新たな研究のスタートアップに取り組むことになりました。

インターンシップ期間の40日間のうち、前半は主に動物行動や階層的ネットワークに関する文献調査やグループのメンバーとの議論を通じて、研究状況の把握とアイディアの涵養に努めました。期間後半は、集合的意思決定に関する数理モデル研究プロジェクトの立ち上げに参加するとともに、 その研究において重要な役割を果たすと考えられる「有向非巡回グラフ」の理論について考察を進めました。また、最終週にはグループ内の研究会にて “Collective behavior of repulsive self- propelled particles” というタイトルで、私が博士課程で取り組んできたテーマについて発表を行うとともに、他のメンバーの発表を通じてグループ内で進行している研究の動向を知り、議論を行いました。また滞在期間中は、Vicsek 教授と週に1回の割合で個別に面談していただき、アドバイスを受けることができました。

 

インターンシップを通じて得られた成果


 

Vicsek グループの大きな研究テーマは、生物の集団運動と複雑ネットワークです。前者は特に鳩や馬などの動物の群れに焦点をあてているほか、ドローンの制御などロボット工学的な観点からも研究が進められています。また後者は論文の引用ネットワークの解析などを行っています。両者に共通する関心は、社会性・階層性を持つ集団での個体の影響力の伝播やその結果としての 集団的意思決定にあります。こうした観点は、私が取り組んできた自己駆動粒子系の数理モデル研究とも、日本で近年注目されている自発的に運動する油滴やバクテリアの運動など、いわゆる「アクティブマター」研究とも異なる文脈であり、新鮮さを感じるとともに、今後の私の研究の方向性を考える上で非常に示唆的なものとなりました。

国内外を問わず、自分が所属する研究室以外のグループに身を置いたことは私にとって初めての経験でしたが、英語で意思疎通を図りながら、他のメンバーと関係を築きながら研究を前進させることができたことは、自信になりました。また、滞在中に立ち上げに参加した新規プロジェクトは、インターンシップが終了した後も Vicsek グループのメンバーと協力して継続的に取り組んでおり共同研究に発展することが期待されます。本インターンシップに参加することで上記のような結果・経験を残せたことは大きな成果であり、非常に有意義なものになったと考えています。