河村(吉見グループ)・三澤研究員らの共著論文がJournal of American Chemical Society誌に掲載されました。
鉱物などの色や色調の濃淡が、見る角度により変化する性質を多色性と呼びます。この性質は異方的な結晶構造および電子状態と電磁波との相互作用が、電磁波の入射方向や変更方向によって異なるために現れます。このように物質の電子状態と可視光との関係性を明らかにすることは高効率な発光デバイスや顔料の開発において役立ちます。
物性研究所の平井氏らが新たに合成したカルシウム・レニウム・酸素・塩素からなる化合物(組成式 Ca3ReO5Cl2)は、見る角度によって橙・黄・緑と色が変化します(下記のリンクから実物の写真を見ることが出来ます)。可視光領域でこのような著しい多色性を持つ物質は大変珍しく、この多色性の背景に潜む電子状態に大いに興味が持たれました。
そこで、平井氏らと三澤研究員との議論をもとに河村研究員が密度汎関数理論に基づく第一原理計算を行い、得られたバンド構造に対してワニエ関数を用いた解析をすることにより、この物質の光学的遷移において主要な寄与を与えるRe 5d軌道のエネルギー的・空間的な配列を求めました。この解析により、最高占有軌道(HOMO)がRe 5dxy軌道であり、その上にdxz-yz、dxz+yz、dz2、dx2-y2に由来するバンドがあることが分かりました。この準位の並びは多色性の元となる吸収係数の周波数・偏光依存性と符合しており、この物質では原子軌道準位の並びが多色性という目に見える形で現れることを明らかになりました。
また、配位子の向きの揃ったRe 5dxy軌道がHOMOにあることにより、Ca3ReO5Cl2は3次元的な結晶構造を持ちながら極めて1次元的な孤立スピン系としてふるまうため、この系のスピン構造にも興味がもたれて現在HΦを用いたさらなる解析が進められています。
この研究は物性研究所の平井氏、矢島氏、西尾(浜根)氏、金氏、秋山氏、廣井氏と東京大学新領域創成科学研究科の阿部氏、有馬氏との共同研究です。本研究論文は、アメリカ化学会により発行されているJournal of American Chemical Society誌に掲載されました。
J. Am. Chem. Soc. 139, 10784 (2017).